【まとめ】ここ数年で読んだおすすめ傑作ミステリー4選

本のこと

本も映画のように月ごとにまとめたいと思っていたのだけど、ジャンルが混じるのも何かなと思ったので、本についてはこうしてジャンルごとに思いつきで不定期にまとめてみたいと思う。

今回はここ2年くらいのあいだに読んだミステリーを。

記しておかないと忘れてしまう、忘れてしまうには惜しいとにかくおもしろい近年の傑作ミステリー。

真山 仁:『トリガー』

【STORY】東京オリンピックがついに開幕した。現役検事ながら馬術競技韓国代表のキム・セリョンは五輪直前、二度も凶漢に襲われ、ある不正に関する極秘捜査をやめるように脅されていた。5月半ばには、在日米軍女性将校と北朝鮮の潜伏工作員の変死事件が相次いで発生。三つの事件の裏には、日韓の在日米軍に関するある謀略が蠢いていた――。アジアの安全保障を根底から揺るがすパンドラの箱が、いま開かれた!!(Amazonイントロダクションより)

東京オリンピックはこの本を読んだ時点ではコロナで延期になったのだけど、予定どおりあった世界の物語。国と国とのきな臭い関係性が重厚に描かれて、ミステリーとしての疾走感も強烈。

日本に潜伏している某国の工作員「眠りネズミ」の正体がわかった時には声が出るくらい驚いた。

真山仁氏はドラマ化もされた大ヒット作『ハゲタカ』の著者。ハゲタカ、昔読みかけたのだけど経済用語がまったくわからず断念した苦い読書歴。いまならちょっとは理解できるだろうか。

大沢 在昌:『熱風団地』

【STORY】フリーの観光ガイド佐抜克郎は、外務省関係者から東南アジアの小国“ベサール”の王子を捜してほしいと依頼を受ける。軍事クーデターをきっかけに王族の一部が日本に逃れていたのだ。佐抜は“あがり症”だが、ベサール語を話せるという特技があった。相棒として紹介された元女子プロレスラーのヒナとともに、佐抜は王子の行方を求めて多国籍の外国人が暮らす「アジア団地」に足を踏み入れる。ベサールの民主化を警戒する外国勢力や日和見を決め込む外務省に翻弄されながらも、佐抜は大きな決断の舞台に近づいてゆく――。(Amazonイントロダクションより)

架空の小国ベサールの王子が日本で行方不明に。行方を探すために外務省NPOから非公式に探偵役として白羽の矢が立った主人公・佐抜(あがり症。プロレス好き)。相棒としてブッキングされたベサールと日本それぞれの血を引く元女子プロレスラー・ヒナ、という異色コンビの捜索譚。

もうとにかくおもしろいしかなく、一気読みで休日が1日潰れてしまった。

ミステリー要素で引っ張られる構成でありつつも、純粋ないわゆる警察小説ではない。けれど、先が気になり過ぎて閉じることができない。長期休みに『北斗の拳』を全巻借りてきて読み耽るとか、待ちに待った新作のドラクエナンバータイトルをプレイするとか、そういう充実感があった。

佐抜とヒナのバディはもとより、大学時代専攻したベサール語の恩師、思春期まっただなかの王子。登場人物たちもそれぞれキャラが立っていて、架空の世界なれど鮮やかで瑞々しい。

『新宿鮫』シリーズ等、稀代のハードボイルド作家・大沢在昌氏のどのシリーズにも属さない完全オリジナル作品。読書は大切な趣味のひとつだけれど、読書に求める満足をさらに上回ってくる作品。

呉 勝彦:『爆弾』

【STORY】自称・スズキタゴサク。取調室に捕らわれた冴えない男が、突如「十時に爆発があります」と予言した。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。爆破は三度、続くと言う。ただの“霊感”だと嘯くタゴサクに、警視庁特殊犯係の類家は情報を引き出すべく知能戦を挑む。(Amazonイントロダクションより)

微罪で所轄にしょっぴかれてきたうだつの上がらない中年:スズキが高IQの爆弾魔だった。わけありの過去を背負う所轄刑事や、血気盛んな若手巡査、本町の堅物と風変わりな切れ物……さまざまな面々が東京のあらゆる場所に仕掛けられた爆弾の爆発を止めるために狭い取調室で心理戦を展開する。

「このミステリーがすごい!」第1位になった作品のようで、読み終わったあとに電車に大々的な広告が貼られていた。ノンストップでハラハラしながら読めるミステリー。隙なくみっちり編み込まれた、中盤でのたわみもない筆致は見事。

メディアミックス好きじゃない派だけれど、映画にするならスズキ役は塚地武雅さん一択だなとか思いながら読み進んだが、こちらはすでに映画化が決定したらしい。スズキ役は誰なのだろう。気になる。

桃野 雑派:『老虎残夢』

【STORY】湖に浮かぶ孤島で、武術の達人・泰隆が遺体となって発見された。三人の武侠を招き、うち一人に「奥義」を授けるとしていた矢先のことだった。孤絶した楼閣は、特殊な武芸を身につけた彼らをもってしても侵入は不可能にみえる。泰隆の愛弟子・紫苑は、姉妹以上の絆で結ばれた恋華とともに、その謎に挑む。(Amazonイントロダクションより)

江戸川乱歩賞受賞作。古代中国(宋)を舞台に、密室で死んでいた武術の師匠。自死なのか、他殺なのか。他殺であれば犯人は?ーーといった短時間のうつろいが戯曲のように展開する物語。

なので、ゴリゴリの推理ものって印象より個人的にはキングダムとか、幻想水滸伝とか、そういうサブカルチャーっぽい雰囲気だという印象を持った(作者はゲームシナリオライターという顔もあるらしく、そう感じるのは道理なのかも)。

とはいえ、背景描写は非常にしっかりして(古代の中国にはまったく詳しくないので詳細は不明なのだけど)いるので、もしその方面に詳しいひとが読んだらすごい骨太だと感じるんじゃないかと思う。

かといって、詳しくない読者を門前払いする感じではなく、ふわっと熱中できる読書の時間に引き込んでくれる、どこか間口の広いやさしさも感じる小説。

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