『国宝』という映画がある。
今夏大ヒットしている歌舞伎が題材の映画で、吉田修一原作、『フラガール』などを手掛けた李相日監督の最新作。
以前、久しぶりに『花とアリス』を再鑑賞し、クラシックバレエを踊る蒼井優は改めて素晴らしかったと書いたが、こちらのフラガールも踊る彼女はそれはそれは素晴らしかった。
吉田修一に関しては、何を読んだか忘れてしまったが、「飲み物を買う時、2種類で迷うひとの気が知れない。100円かそこらのものなのだから両方買ったらいいやんけ」といった記述がすごく印象に残っている。小説の登場人物がそう言っていたのだっただろうか。それともエッセイのようなものだったのか。たしかにな、という思いと、いや2本はいらないやろ荷物になるやん、という思いと、ほしいと思ったものを迷わず両方買うという金銭感覚が羨ましいなという思いと、いろいろなことを思った。その一文から。
それはさておき、国宝。
前回劇場に行った際に予告を見てこれは観たいと思った。が、上映時間をそれとなく確認すると、2時間55分。あっ、これはムリ、と即座に思った。
かねてからトイレが近いことを記事にし、2時間の映画ですら劇場ではつねに通路側の座席をとり、大福などを事前に摂取して臨むようにしている。それが、3時間なんて。ムリムリムリムリ、ぜったいムリ。
と、思っていた。
上映時間3時間ともなると、普段そこまでトイレを問題にしていない層も話題にするようになる。2時間なら問題ないが、3時間はちょっと……という層だ。
「国宝 トイレ」などで検索すると、それらしき相談の知恵袋などがヒットする。はじめは「観たいけど、ぜったいムリ」な層と気持ちを分かち合おうという意図でそうした相談を読んでいたが、意外な回答にはっとすることになる。
「トイレまでの感覚が3時間なんて映画じゃなかったら普通のこと。映画だからそんなに気になるだけ。それに『国宝』はトイレのことは完全に忘れられるくらい没頭できる映画だから大丈夫ですよ」
なるほど。
というか自分、普段から水分量が多いが、もしかしたら無駄な水分を摂っているのかもしれない。ちょっと、試しにあしたから飲み物の摂取を意識的に「本当に飲みたい時だけ」にしてみよう。そのうえで、普段のトイレの間隔を調査してみよう、ということになった。
結果は、知恵袋の回答どおり。3時間どころか、4時間以上行かないこともざら。冷静に考えたら、睡眠中はそれ以上なわけだし、身体的なポテンシャルはあるということ。
これは…………行けるかもしれない。
この日から、国宝のためのトイレトレーニングがはじまった。
実際に劇場に行く日は1週間程度後に設定した。やることとしては上記の調査に要した生活を継続すること。
・喉が渇いた時に水分を摂取する。
・トイレに行く間隔をカウントする。
実際調査してみてはじめてわかったけれど、けっこう水分は惰性で摂っていることが多い。そして、トイレの間隔はやはりだいたい通常3~4時間半。1日のトイレ平均回数(小のみ)は7回ほど。意識的に生活してみれば、トイレの回数はごくごく平均。特段頻尿でも何でもなかった。
大福について
そして、再三話題にしてきて、もはや映画鑑賞のマストな習慣としている『尿意を抑えられる食品【大福】を上映1~2時間前に食べる』。
トレーニングで概ね水分の摂取量や、トイレの間隔は習慣づいた。けれど、3時間ともなるとうっかりコーラとポップコーンは買えないし(そもそも『国宝』はコーラとポップコーンが似合う映画ではない)、保険としては大福もしっかり食べて臨みたい。
ただ、これまでの体感として、大福を食べることが映画鑑賞のトイレ対策に効果覿面! とは実際感じたことがなかった。だから、保険だ。
そもそも、というのかそれもそのはずというのか、よくよく調べてみるとトイレ対策に【大福】だと、小豆に利尿作用があるから逆効果かもしれないということまで謳われている。
なんと。
実際に効果的だとされているのは純粋な【餅】らしく、たとえば試合中にトイレに行くことができないマラソンランナーは試合前に餅を食べるという。さらに調べを進めると、トイレ対策として実際に作用しているのは【糖質】だという。糖質はその3倍の水分と結びつき、体内で抑えられる効果がある、とのこと。そして、糖質という観点からある食品に白羽の矢が立った。
トイレ対策の本命
その食品とは【カステラ】。
観劇におけるトイレ対策の代表選手である大福の糖質が約60gに対して、カステラはコンビニ等で買える1パック3切れの糖質が約78g。なるほど、余裕で勝っている。それに、小豆が使われていない分、純粋な餅にも近い気がする。よし、今回の『国宝』にはカステラを採用しよう。
その日の食事などが影響しないよう、鑑賞は朝イチの回(8:15~)を選択した。カステラは朝食にでも食べていけばちょうどいいだろう。
心配事があるとすれば、「トイレの間隔は一定ではない」ということ。水分を控えようがどうしようが、4時間以上平気な時もあれば、2時間足らずで尿意が訪れる時もある。それはもう、生身の人間である以上仕方ない。このブレこそが生きているということなのだ。2時間足らずのターンが上映中に来ないことを祈る。
そしていざ、劇場へ。
結果は……
結論から言うと、3時間へっちゃらだった!
タイミング的にたまたま4時間のターンだったのか、カステラが効いたのか、それともここまでのトレーニングの成果なのか、どれなのかはわからないが、とにかくへっちゃらだった。エンドロールでトイレに駆け込むこともなく、井口理の歌声も堪能した後、劇場が明るくなってゆっくり退席し、長いエスカレーターを降りてからロビーのトイレの行列に並んだ。それでも余裕があった。
ちなみに、知恵袋の回答にあったような「『国宝』はトイレのことは完全に忘れられるくらい没頭できる映画だから大丈夫」だったかというと、それほどではなかった。これはべつにいい映画ではなかったという意味ではない、単純に3時間は長かったということ。
というか、3時間映画って自分自身がどうこうっていうよりも集中できる環境がそもそも維持されていないっていうのがけっこう発見といえば発見だった。トイレに立つひとは当然いるし(実際、思ったよりいた。ほぼ満席という密度だったので、かなりバタバタした印象だった)、隣の席の婦人は数十分おきにスマホ見てた(バックの中でならOKだと思っていたようですが、アウトですよ)。
という意味で、正直にいうとそんなに素晴らしい体験というわけにはいかなかったのだけど、それでも劇場で3時間映画を完走できたっていうのはすごく自信になった。
というわけで、映画や舞台鑑賞、観劇にトイレがネックだというひとは、一度日頃の水分摂取の傾向を見直してみるのもいいかもしれない。
とはいえ、今は水分補給が欠かせない灼熱の8月(熱中症予防には「喉が渇いてから水分を補給するのでは遅い」とも聞く)。トレーニングはほどほどに。
追記:そして、わたしは調子に乗って今度は上映時間150分の『鬼滅の刃 無限城編』をど真ん中の席で鑑賞(これまでは『国宝』を含め、つねに通路側の席をキープしていた)。とくに鑑賞前に糖質も摂取せず、劇場で冷たい飲みものも購入したが、楽勝だった。国宝のためのトイレトレーニングは、いまも生きているようだ。
きょうの本
吉田 修一:『パーク・ライフ』
本文で触れた小説はこれだったかもしれぬ。芥川賞受賞作。
ーー公園にひとりで座っていると、あなたには何が見えますか?
スターバックスのコーヒーを片手に、春風に乱れる髪を押さえていたのは、地下鉄でぼくが話しかけてしまった美女だった。噴水広場でカラフルな弁当を広げるOL、片足立ちの体操をする男、小さな気球を上げる老人・・・。ベンチの隣に座って彼女と言葉を交わし合ううち、それまでなんとなく見えていた景色が、にわかに切ないほどリアルに動きはじめる。
日比谷公園を舞台に、男と女の微妙な距離感を描いて、芥川賞を受賞した傑作小説。(Amazonイントロダクションより)