火星での暮らし

暮らし

夜。部屋の温度は26℃くらいで安定している。
寝る前の部屋の温度。
寝る前に飲んだり食べたりする習慣は
(基本的に)ないので、
しずかに麦茶を飲みながらPCを広げる。

さて、「ブログをはじめたい」。


何年も前からうっすら考えていたことである。
とはいえ、明確な目的があるわけではなく、
「PCあるし何かやりたいな……でも動画は無理だな」
というぐらいのもので、

興味本位ではじめられそうなものが
(思い浮かぶところでは)

ブログくらいしかなかったのである。

けれど。
はじめたとして何を発信するのか。

食生活には
それなりにこだわりもあるけど中途半端、
映画が好きだけど中途半端、
本も読書も好きだけど中途半端、
音楽も好きだけれど雑食すぎて中途半端、
ものはできるだけ少なく持ちたい主義、
だけれどミニマリストってほどでは……

という感じで気持ちが本格的には前を向かず、
長らく宙ぶらりんになった。

風呂に湯をぬるくはり、
飯島奈美『シネマ食堂』をぱらぱらとめくる。


食卓が出てくる映画が好きだ。
好きな映画が『かもめ食堂』や『めがね』なのは
けっこうステレオタイプかもしれない。

ある種のステレオタイプ。

『ハンサムスーツ』から登場の
ケチャップ味のナポリタンの具に目玉焼きを
合わせた’ナポリエッグ’はぶち美味そう。
『ビィヨンの妻』の’もつ煮込み’もいい。

なかには
女史が携わった映画以外の章もあり、
大好きな映画のひとつである
『青いパパイヤの香り』の食卓も登場する。

読みながら「いいな」と思う箇所があった。
それは巻末のほうにあった
旅先でのタイムテーブルに日記を加えたもの。

どこで何を食べて、何時にどこに到着して、
季節はこうで天気はこうで……

なんのことはない、
ひとの日常にふれるのがわたしは好きだった。

なかでも、とくに食べ物。

たとえば、
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は
話の本筋より食卓のシーンから目が離せなくなった。
(本筋ももちろんおもしろいのだが)。
図書館司書と囲むことになるはじめての食卓
(油揚げをさっと焼いて醤油をかけたもの、
茗荷のおひたし、山芋と鰯のフライ、
牛肉とセロリの煮物……などなど)
もいいし、老人の太った孫娘が作る

きゅうりのサンドイッチもいい。

まぁ中途半端でもいっか。

そう思えた時には行動は早く、
わたしはkindleにためるだけためた
ブログ運営の教則本を
片っぱしから開いて情報を集め、
至れり尽せりの関連動画や
WEBページを検索しまくり、
WordPressでアカウントを取得して
いまこの記事を書いているというわけなのである。

10月。
秋はまだ来ない。

でも、来年になれば
季節の変わりかたから
また思い出し直すことになる。

火星での暮らしはちょうどそんな感じである。

きょうの本

飯島 奈美:『シネマ食堂

『深夜食堂』、『かもめ食堂』などフードスタイリストとして活躍する彼女が携わった映画をはじめとする【映画の食卓】が登場する写真集兼レシピ集。B5サイズの薄い装丁も扱いやすい。

レシピとして活用するというよりは予定のない雨の休日に何ともなしに眺めたくなる、わたしにとってはリラックス用のトリガー的な本。映画好きにも響くはず。

村上 春樹:『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』

言わずと知れた全ハルキストが偏愛する長編小説。

ハードボイルド・ワンダーランドの章:暗号を取り扱う「計算士」として活躍する「私」
世界の終りの章:一角獣が生息する幻想世界の「僕」

ページを捲るごとに緊張感が高まるミステリー的側面と、現実ばなれしたスタイリッシュな日常とオシャレな会話、狂気じみた登場人物、食欲をそそる料理とセックス……いろいろ詰め合わさったもはや古典。

だけど、人生のどこかでこの本を読む機会に出会えたひとはちょっと幸せかもね。

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